健康保険の被扶養者「収入要件」についての解説です。個人年金を受け取るとき、被扶養者の収入に含まれるのか調べました。協会けんぽへ電話したところ、なぜか年金事務所へ回され、さらに電話トラブルに遭遇しました。でも、ついに自力で回答を発見しました。
健康保険の被扶養者について知りたい
2020年9月9日(水)健康保険の被扶養者になるための「収入要件」について調べました。
私は定年退職した後に再雇用せず無職になりました。妻は会社員なので、被扶養者として健康保険へ加入することにしました。被扶養者であれば健康保険の保険料が無料です。国民健康保険の保険料は高額になるので、会社員の被扶養者になるのが一番お得です。
しかし被扶養者として認定されるためには、いくつかの条件があります。実際に扶養されていること、原則として同居していること、収入が少ないことです。この中の「収入要件」について判断に迷いました。「個人年金を受け取るときに、収入に含まれるのか」迷ったのです。
私は現役時代に民間会社の個人年金に加入しており、60歳から個人年金を受け取る予定にしています。「民間会社の個人年金が、被扶養者の収入に含まれるのか」ネットで調べても、すっきりした回答が見つかりませんでした。公的年金については明記されてますが、個人年金は記載がありません。そもそも個人年金は、自分で積み立てたお金です。自分の貯金を取り崩すのと同じです。自分の貯金は収入ではないとも考えられます。ここでわからなくなってしまうのです。
ネットで調べると、大手企業の健康保険に関する質疑応答は多数掲載されていました。しかし特定企業の社員向けの解説です。そもそも論として健康保険制度は国の制度です。正式な国の見解を知りたいわけです。
相談窓口へたどり着かず心が折れる
そこで「協会けんぽ」の相談窓口へ電話しました。
最初に自動応答システムのアナウンスが流れ、健康保険に該当する番号を選択し、ようやく担当者へ繋がりました。かなり無愛想な声でした。
「健康保険の被扶養者になるための収入要件について聞きたい」ことを伝えると、迷惑そうな声で「それは協会けんぽでなく、年金事務所へ電話してください」とすぐに断られました。
ここが社会保険の「わかりづらい」ところです。「協会けんぽ」なのか「年金事務所」なのかよくわかりません。普通に考えれば、健康保険の被扶養者のことなので、「年金事務所」ではなく「協会けんぽ」のはずです。
「協会けんぽ」の担当者は、健康保険の被扶養者に関することは年金事務所だと言うので、電話代が無料の楽天スマホ(Rakuten Link)を使い年金事務所へ電話しました。すると、また自動応答システムの案内です。いくつか番号を選び、ようやく担当者に繋がりました。
ところが不思議な状況になりました。なぜか、こちらの音声が相手方に聞こえないのです。何度か「もしもし?」と話しかけても、しばらくして「お客様の声が聞こえませんので、切らせていただきます。」と電話を切られてしまいました。何度も「もし、もし、聞こえますか?」と話しかけましたが、ほんとに聞こえないようでした。仕方なく、もう一度電話しました。すると声の違う別の担当者でしたが、やはりこちらの音声が聞こえず同じように切られてしまいました。
私のスマホは「楽天スマホ」です。いわゆる格安スマホで料金がものすごく安いです。東京都内に住んでいるため電波状態は安定しています。ドコモなどの大手携帯電話会社と全く同じように使えます。「楽天スマホ」のおかげで、大手携帯電話会社と比較して月額料金が5,000円以上安くなりました。「こちらの音声だけが聞こえない」というのは不思議な現象ですが、もしかしたら「楽天スマホ」が原因の可能性もあります。
しかし協会けんぽの担当者に冷たく断られ、年金事務所の担当者からは「声が聞こえない」と一方的に電話を2回も切られ、もう心が折れてしまいました。(音声が聞こえないのは、こちらが悪いのだと思いますが・・)
なぜ簡単に電話で問い合わせできないのか不思議です。日本は「国民皆保険」なのですから、簡単に電話で問い合わせでき、疑問を解決できるシステムが求められます。わからないまま手続きを行うのは不安です。これでは社会保険そのものに不信感を抱いてしまいます。担当が異なるなら転送してもらいたいところです。
電話での問い合わせに挫折し、かなり心が折れてしまいました。なんか調べるのが億劫になりました。それでも健康保険の被扶養者に関することは、自分の生活に係ることなので正確に把握したいものです。
ついに「個人年金が収入に該当するか」回答を発見
そこで仕方なく、またインターネットで検索しました。
すると、なんと疑問点が解決しました。偶然、質疑応答を見つけたのです。
日本年金機構の「主な疑義照会と回答について」 (2020年4月1日)
この中の下段にある「主な疑義照会と回答について」 ➡ 「厚生年金保険 適用(PDF 827KB)」の中に、知りたいことがありました。
該当部分を抜粋します。誤字脱字と思われる部分も原文のまま記載します。
疑義照会回答(厚生年金保険 適用)28ページ 整理番号11
被扶養者認定の際の収入について、積み立て型の個人年金が満期となり受給を開始した際に、一括で受け取る場合は一時的な所得とみなし収入としては算入しないが、数年にわたり分割して受給する場合はどのように判断すべきか、お伺いします。
①貯蓄(預貯金)の解約と同様に考え、収入には含まない。
②税法上、積立金(元金)は非課税、利息は課税(雑所得扱い・預貯金と同じ)となっていることをふまえ、利息分のみ収入として算入する。
③定期的な収入とみなし、その年に受け取る額は全額収入として算入する。
①~③いずれとなるのか、ご教示願います。
回答
扶養認定基準については、昭和 52 年 4 月 6 日保発第 9 号・庁保発第9 号により、収入基準を定めているところであり、収入の算定については、昭和 61 年 4 月 1 日庁保険発第 18 号と同様の扱いをしているところである。
「年間収入」とは、認定時点での恒常的な収入の状況により算定することとされており、その収入の算定にあたっては、恒常的な収入には、恩給、年金給与所得、傷病手当金、失業給付金、資産所得等の収入で継続している入るものがすべて含まれることとされている。
得られる個人年金が、契約内容にかかわらず、数年にわたり分割して受給する場合は、継続的して入るものとみなし、収入として取り扱うことが妥当である。
なお、税法上の取扱いや考え方とは異なるため、課税・非課税は考慮しない。
この質疑応答の回答では、分割して受け取る個人年金は、所得税法の考え方とは異なり、受け取った年金額(全額)が「被扶養者の収入」になると明記しています。所得税のような利益部分(所得部分)とかの区別はありません。つまり受け取った個人年金全額(積み立て部分、過去に支払った保険料と利息分を含む全額)が収入になります。
今までネットで調べてもわからなかったのは、この質疑応答がPDFファイルのためです。テキスト文字でないので通常の検索にひっかからないことでした。今回、何気なくPDFファイルをダウンロードして開いて見つけました。
個人年金が「収入に該当するか」迷う理由
参考に、今までわからなかった「日本年金機構のサイトに掲載されている通常の説明文」を記載します。この説明を読んでも、いまいち判断に悩みます。収入に関する部分のみ抜粋します。
「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」
《被扶養者の範囲》
(略)
被扶養者の認定
(1)収入要件
年間収入130万円未満(60歳以上又は障害者の場合は、年間収入※180万円未満)(略)
※ 年間収入とは、過去における収入のことではなく、被扶養者に該当する時点及び認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいいます。(給与所得等の収入がある場合、月額108,333円以下。雇用保険等の受給者の場合、日額3,611円以下であること。)
また、被扶養者の収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれますので、ご注意願います。
失業手当も日額3,612円以上受けると、その間は、被扶養者から除外になります。
上記の説明では、民間保険会社の個人年金が収入に該当するのか、明確に記載してありません。公的年金のみ記載してあります。
さらに迷ってしまう原因は「所得税法の考え方」です。所得税は利益部分に対してのみ課税するのが原則です。売上金額から仕入れ経費などの売上原価を引いた利益部分(所得)のみが課税対象です。
民間会社の個人年金についても、所得税法では同じように考えます。
個人年金として受け取る金額から、過去に支払った保険料(掛金)を控除した金額が、所得税の課税対象金額(所得)です。保険料として過去に支払った金額(掛金)は、自分の貯金と同じです。自分の貯金を取り崩した部分については課税されない(過去の保険料は必要経費とみなす)というのが所得税法上の考え方です。
所得税法では利益部分だけに課税されます。つまり積み立てた個人年金であれば、「上積みされた利息分のみに課税」されるのが所得税法の考え方です。
現在(2020年)は金利がとても低いです。個人年金として100万以上受け取ったとしても、ほとんどの部分が過去の保険料(掛金)です。個人年金が課税対象になるのは稀です。通常は、基礎控除などの控除額の方が多くなるので確定申告は不要になるはずです。
詳細は別記事
この所得税法上の考え方をベースにしてしまうと、上述「(1)収入要件」の説明で迷ってしまうのです。「公的年金」の収入は該当すると書いてありますが、個人年金は記載してありません。個人年金は、自分で積み立てた貯金と同じなので、あえて除外しているとも受け取れてしまいます。個人年金の原資は、自分の貯金なのだから、被扶養者の収入要件に含まないのではないか、あるいは含まれたとしても、所得税法上の考えと同じように利息部分だけが収入の要件に該当するのではないかと思ってしまうのです。ここが判断に迷ってしまう部分です。
結論から言えば、上述の「主な疑義照会と回答について」に明記してあるように、民間会社の個人年金であっても、数年に分けて受け取るものは、毎年受け取る年金額の全額が収入に含まれます。
これからは「人生100年時代」です。高齢者がどんどん増えます。高齢者が被扶養者に加入するときに「個人年金が収入に含まれるか?」みんな判断に悩むと思います。日本年金機構と協会けんぽのサイトで、これらの疑問点を明確に解説して欲しいものです。いちいちPDFをダウンロードして開かないとわからないのでは不親切です。実際に私も半年ぐらい調べていて、今日やっと発見しました。
また協会けんぽに電話したら日本年金機構へ回され、日本年金機構へ電話したら「音声が聞こえない」と2回も切られてしまいました。もっと簡単にわかりやすい問い合わせシステムが望ましいです。ネットで簡単に回答が見たいものです。
健康保険制度は、国のための制度ではなく、「国民のための制度」ですから。
参考 保発第九号・庁保発第九号
参考に、上記「疑義照会回答」に記載されている通知を掲載します。ネットで公開されている情報です。
○収入がある者についての被扶養者の認定について
(昭和五二年四月六日)
(保発第九号・庁保発第九号)
(各道府県知事あて厚生省保険局長・社会保険庁医療保険部長通知)
健康保険法第一条第二項各号に規定する被扶養者の認定要件のうち「主トシテ其ノ被保険者ニ依リ生計ヲ維持スルモノ」に該当するか否かの判定は、専らその者の収入及び被保険者との関連における生活の実態を勘案して、保険者が行う取扱いとしてきたところであるが、保険者により、場合によっては、その判定に差異が見受けられるという問題も生じているので、今後、左記要領を参考として被扶養者の認定を行われたい。
なお、貴管下健康保険組合に対しては、この取扱要領の周知方につき、ご配意願いたい。
記
1 被扶養者としての届出に係る者(以下「認定対象者」という。)が被保険者と同一世帯に属している場合
(1) 認定対象者の年間収入が一三〇万円未満(認定対象者が六〇歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあっては一八〇万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の二分の一未満である場合は、原則として被扶養者に該当するものとすること。
(2) 前記(1)の条件に該当しない場合であっても、当該認定対象者の年間収入が一三〇万円未満(認定対象者が六〇歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあっては一八〇万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入を上廻らない場合には、当該世帯の生計の状況を総合的に勘案して、当該被保険者がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認められるときは、被扶養者に該当するものとして差し支えないこと。
2 認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合
認定対象者の年間収入が、一三〇万円未満(認定対象者が六〇歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあっては一八〇万円未満)であって、かつ、被保険者からの援助に依る収入額より少ない場合には、原則として被扶養者に該当するものとすること。
3 前記1及び2により被扶養者の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなると認められる場合には、その具体的事情に照らし最も妥当と認められる認定を行うものとすること。
4 前記取扱いによる被扶養者の認定は、今後の被扶養者の認定について行うものとすること。
5 被扶養者の認定をめぐって、関係者間に問題が生じている場合には、被保険者又は関係保険者の申し立てにより、被保険者の勤務する事業所の所在地の都道府県保険課長が関係者の意見を聴き適宜必要な指導を行うものとすること。
6 この取扱いは、健康保険法に基づく被扶養者の認定について行うものであるが、この他に船員保険法第一条第三項各号に規定する被扶養者の認定についてもこれに準じて取り扱うものとすること。
参考 庁保険発第一八号
○国民年金法における被扶養配偶者の認定基準の運用について
(昭和六一年四月一日)
(庁保険発第一八号)
(各都道府県民生主管部(局)国民年金主管課(部)長あて社会保険庁年金保険部国民年金課長通知)
国民年金法(昭和三四年法律第一四一号)第七条第二項に規定する主として第二号被保険者の収入により生計を維持することの認定に基準については、昭和六一年三月三一日庁保発第一三号「国民年金法における被扶養配偶者の認定基準について」都道府県知事あて社会保険庁年金保険部長通知により通知されたところであるが、その運用上の留意事項は次のとおりであるので、遺憾なきよう取り扱われたい。
1 第三号被保険者としての届出に係る者(以下「認定対象者」という。)が、健康保険、船員保険若しくは共済組合の被扶養者として認定されている場合又は所得税法(昭和四○年法律第三三号)第二条第一項第三三号に規定する控除対象配偶者として取り扱われている場合(控除対象配偶者として取り扱われていない場合であつて、前年における年間収入が一一○万円未満(認定対象者が概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあつては一六○万円未満)である場合を含む。)は、これを第二号被保険者の配偶者であつて主として第二号被保険者の収入により生計を維持している者(以下「被扶養配偶者」という。)として取り扱うこと。ただし、認定対象者がこれらに該当する場合であつても、被扶養配偶者の認定基準に該当しないことが明らかであるとき又は農業者年金の被保険者であるときは、この限りでないこと。
2 「第二同被保険者と同一の世帯に属する」とは、認定対象者が第二号被保険者と生計を共にし、かつ、同居している場合をいうものであること。ただし、勤務上別居を要する場合若しくはこれに準ずる場合又は勤務等に際して自己の都合により一時的に別居を余儀なくされる場合には、同居を要しないものとすること。
3 「年間収入」とは、認定対象者が被扶養配偶者に該当する時点での恒常的な収入の状況により算定すること。したがつて、一般的には、前年の収入によつて現在の状況を判断しても差し支えないが、この場合は、算定された年間収入が今後とも同水準で得られると認められることが前提であること。
なお、収入の算定に当たつては、次の取扱いによること。
(1) 恒常的な収入には、恩給、年金、給与所得、傷病手当金、失業給付金、資産所得等の収入で、継続して入るもの(又はその予定のもの)がすべて含まれること。
(2) 恒常的な収入のうち資産所得、事業所得などで所得を得るために経費を要するものについては、社会通念上明らかに当該所得を得るために必要と認められる経費に限りその実額を総額から控除し、当該控除後の額をもつて収入とすること。
(3) 給与所得(給与、年金、恩給等)は、控除前の総額を収入とすること。
4 婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある認定対象者の取扱いに関しては、「事実婚関係の認定について」(昭和五五年五月一六日庁保発第一五号都道府県知事あて社会保険庁年金保険部長通達)及び「事実婚関係の認定事務について」(昭和五五年五月一六日庁保険発第一三号都道府県民生主管部(局)保険主管課(部)長・国民年金主管課(部)長あて社会保険庁年金保険部国民年金課長・業務第一課長・業務第二課長通知)の例により事実婚関係の認定を行つた後に、被扶養配偶者の認定を行うこと。