「そもそも定年って何歳?」、「昔から定年はあるの?」
定年退職についての基礎知識の解説です。定年制度は、昔とかなり変わっています。年金の支給開始年齢とも関係しています。定年の歴史や諸外国との比較など、わかりやすく解説します。
日本の「会社員の割合」とは
そもそも会社員(雇用者)の割合は、どのくらいなのでしょう。日本で働く人たちの中で、会社員の割合を調べてみました。
総務省統計局のデータ「令和2年1月31日、労働力調査(基本集計)2019年(令和元年)平均(速報)結果の要約」によれば、次のとおりです。
就業者数(働いている人) 2019(令和元)年 6,724万人
日本の人口は、2019年現在、1 億 2,617 万人です。この人口は、赤ちゃんも含まれますが、およそ半数の人が働いていることになります。
このうち「雇用者」(会社に雇われている人)の割合は、89.3%です。なんと働いている人の9割が会社員でした。驚きました。これほど多いとは思っていませんでした。
1959(昭和34)年は、雇用者の割合が 50% です。かなり急激に「サラリーマン化」が進行してきました。
定年年齢の歴史
日本における定年制の歴史を調べました。2020年現在は、60歳で定年退職し、その後、希望者は65歳まで「再雇用」として働くのが一般的です。
定年についての法律は、法律が成立した後に、施行日が数年先になっています。これは多くの民間企業が、すぐには対応できないためです。最初の法律では「努力義務」とし、数年先に「義務化」になります。定年年齢は、ひとりの人生を決めるものであり、企業にとっても人事管理の面で重要事項です。法律ができたらすぐに実行できるものではありません。
日本の定年年齢の推移
明治時代 50歳
昭和初期 55歳
1986(昭和61)年 60歳 努力義務(1998年に義務化)
2013(平成25)年 65歳までの継続雇用を義務化(再雇用制度)
定年の年齢は、法律では下限のみを定めています。そのため、会社ごとに定年年齢が異なります。2020年現在は、60歳で定年退職し、65歳まで「再雇用」として働く制度が多いです。「再雇用」時には「新人並みに給与が下がる」のが一般的です。およそ半分以下になります。
外国の定年年齢
日本は60歳になると定年退職することが多いです。しかし海外は違います。アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアなどは、原則として定年制が禁止されています。「年齢により差別してはいけない」という考え方があります。しかし公共交通機関のドライバーや警察官など、体力が仕事に影響する職種は例外です。例外的に定年制度が設けられているようです。
参考に各国の定年年齢です。
定年なし
アメリカ、インド、ドイツ、オーストラリア、ブラジル、インドネシア、メキシコ、イタリア、ロシア、スペインなど60歳
日本、韓国、マレーシア、タイ、中国、ベトナムなど70歳
アルゼンチン、フランス、ポルトガルなど
厚生年金の支給開始年齢
定年制度は、公的年金の支給開始年齢と関係しています。年金がもらえるなら、定年退職で無職になっても生活できます。しかし定年の後に、長期間年金がもらえないとしたら、生活が破綻してしまいます。
そこで年金の支給開始年齢を調べてみました。2020年現在は、原則として65歳以上から公的年金が支給されます。
日本の年金支給年齢の推移
1942( 昭和17)年 男性のみ55歳から年金支給
1944( 昭和19)年 男性、女性、全員が55歳から年金支給
1954( 昭和29)年 男性は60歳へ引き上げ、女性は55歳のまま
1985( 昭和60)年 男性は65歳、女性は60歳へ引き上げ
1994( 平成6)年 老齢厚生年金の定額部分(加入月数比例 1階部分)
男性65歳、女性65歳へ引き上げ
2000( 平成12)年 老齢厚生年金の報酬比例部分(給与比例 2階部分)
男性65歳、女性65歳へ引き上げ
年金制度は、とても複雑です。法律の成立日(決定日)から、実際に開始されるまでの間に「移行期間(12年~18年)」が設けられています。
また老齢厚生年金については、1階部分に相当する定額部分と、2階部分に相当する報酬比例部分があります。男性と女性で、年齢によって年金受給時期が違っていた歴史もあり複雑になっています。
参考に、外国の年金支給開始年齢は、次のとおりです。いずれも年齢の引き上げが検討されています。
海外の年金支給開始年齢
アメリカ 66歳
ドイツ 65歳
フランス 60歳
イギリス 65歳
日本と、ほぼ同じですね。
現在(2020年)の定年退職の年齢は?
厚生労働省「就労条件総合調査」(平成29年)によれば、定年年齢を60歳としている企業が8割です。定年の年齢を65歳としている企業は16%ほどです。ほとんどの企業が、国の法律に準じて(最低ラインで)定年年齢を定めています。
民間企業は、「定年年齢を上げたくない」のが本音です。定年年齢を上げれば、人件費が膨らんでしまうからです。
例えば、民間企業の売り上げが減り、経営不振になった際は、早期退職やリストラが検討されます。経費を削るためには、固定費のうち大きな割合を占める人件費を減らすのが、最善の方法なのです。赤字に転落した大企業が、大規模なリストラ計画を発表するのは珍しくありません。
「中高年の人は、早期に退職してもらいたい」と考えるのが自然なのです。
なぜ定年がある?
民間企業のほとんどは「人件費を減らしたい」と考えています。人件費を減らすためには、中高年の人に退職してもらうのが一番効率的です。
定年制度は、人件費を減らす(抑制する)ために必要なのです。体力の衰えた高給取りの中高年は退職してもらい、若い人を採用して人件費を安くしたいと考えるのが自然で一般的です。そのため多くの企業が、法律の最低ラインで定年制度を運用しています。
定年制度の目的は、企業を「継続的に成長させる」ためです。年齢の若い人を計画的に採用し、優秀な体力のある人材を常に維持することが重要なのです。
年をとれば、働ける場所は限られてきます。当然のことながら、「退職せずに働き続ける」方が有利なわけです。しかし企業から見れば、高齢になり体力が衰え、アイデアも沸かない中高年の社員に給与を払うよりも、若くて体力も知力もある社員へ給与を払いたいのです。柔軟な発想で、斬新なアイデアを出せる若い人の方が良いのです。
企業を発展させ維持させるためには、若い労働力が欠かせません。そのために定年制度は必須なのです。
コメント