定年退職して無収入になった後も、支払わなくてはならない税金や社会保険料があります。無収入でも免除してもらえません。特に国民健康保険料と住民税については注意が必要です。前年の所得を基に計算されるためです。無収入になる前に貯金しておきましょう。
無収入でも支払いが必要になるもの
2019年現在、多くの会社員は60歳で定年退職です。公的年金の支給開始は65歳からなので、5年間が「無収入」になります。この「無収入」の5年間でも「支払わなければならない社会保険料や税金」について解説します。会社員を定年退職して「再雇用」や「再就職」しない場合です。配偶者を被扶養者としていた場合には、配偶者の分も一緒に検討が必要です。会社員として働かないケースです。
〇社会保険関係
国民健康保険料 前年の所得に応じた保険料
国民年金保険料 月額 16,610円(令和3年度)
(加入義務は60歳未満ですが、40年間分の保険料を支払ってない人は、年金の満額支給を受けるために65歳まで任意加入できます。)
〇税金関係
住民税 前年の所得に応じた保険料
所得税(雑収入などがあるとき)
国民健康保険料の試算例
国民健康保険は、いわゆる医療保険です。病気やケガで治療を受けたときに「3割負担」などになる制度です。健康だとしても必ず加入しなければなりません。前年に収入があると保険料は高額になります。そのため「国民健康保険」と、下記の「任意継続被保険者」の保険料を比較して、損をしないよう検討しましょう。(ひとり暮らしでなければ、一番有利な方法は会社員の家族の被扶養者になることです。収入要件などの条件がありますが保険料は無料になります。)
国民健康保険の保険料は前年の所得から計算されます。つまり退職後に無職・無収入になったとしても、前年の所得を基に保険料が計算されるため高額になることがあります。
例として東京都文京区で試算します。
収入別に3パターン試算しました。およその金額は把握しましょう。実際には住んでいる市区町村により金額が変わります。
〇前年所得 600万円 保険料年額685,830円(月額 57,152円)
(退職前の給与収入が800万円なら所得は600万円です。)〇前年所得 100万円 保険料年額140,830円(月額 11,735円)
〇前年所得 0円 保険料年額20,340円(月額 1,695円)
つまり「国民健康保険」の場合、退職後1年間は、前年の収入をベースに計算されてしまいます。高額な保険料(月額57,152円)になってしまうリスクがあります。無収入の場合は2年目から安く(月額1,695円)なります。
国民健康保険料と任意継続保険料の比較
国民健康保険料は、退職後の1年間は上記のとおり高額な保険料です。そのため、次の「任意継続被保険者の保険料」と比較して、有利な方を選択した方が良いです。
例えば定年退職後に無収入となる想定で、国民健康保険の保険料と、任意継続被保険者の保険料について2年間の総額を比較します。(家族構成により金額は変わります。)
2年間の保険料総額を比較(退職時の給与収入800万円のケース)
国民健康保険 1年目685,830円 + 2年目20,340円=706,170円
任意継続被保険者 34,890円 × 24ヶ月分=837,360円
つまり定年退職後、ひとり暮らしで無収入のときは「国民健康保険」の方が安いです。
任意継続被保険者
再雇用しないときも退職時の職場で引き続き「任意継続被保険者」として加入することが可能です。ただし期間は2年間です。退職時の標準報酬月額(上限は30万円です。)で保険料が決定します。ここで注意が必要です。退職前の保険料は会社と折半でしたが、退職後は全額自己負担で2倍になります。
平成31年度 健康保険の保険料額表
任意継続の健康保険料は、上限額が標準報酬月額30万円になっています。継続期間は2年間です。金額は毎年改正されるので最新版を確認しましょう。
参考に平成31年4月時点の任意継続の健康保険料です。
東京都 月額保険料 34,890円
大阪府 月額保険料 35,760円
北海道 月額保険料 36,120円
家族の「被扶養者」になるのが一番有利
もし、家族の中に会社員として「給与」をもらっている人がいれば、その人の「被扶養者」になる方法があります。これが一番安くて負担がありません。
ただし被扶養者として認定を受けるためには、「家計が同一であること、実際に扶養されていること」、「収入が一定額以下であること」などの条件があります。会社によって微妙に条件が違うこともあります。一般的には、同居していて無収入であれば「被扶養者」に認定されますが、詳細は会社の担当者へ確認が必要です。住民票や収入を証明する書類などの提出書類が必要になります。
国民年金(任意加入 満額受給できない場合)
国民年金保険料の納付月数が480月(40年)未満のときは満額受給できません。そのため65歳になるまで「任意加入」して受給額を増やす方が有利です。満額の老齢基礎年金額(国民年金部分)は平成31年4月現在で年額 780,100円です。(毎年金額が変わります。)
もし60歳時点で納付月数が480月未満の人は、老齢基礎年金を満額にしておいた方が良いです。老齢基礎年金は生きている間もらえる年金です。人生100年時代を考えると必須です。
日本年金機構の該当URL
「任意加入制度」
「国民年金保険料」
また国民年金にはお得な制度もあります。年金額を増やす「付加保険料(月額400円)」と、現金で前納すると割引になる「国民年金前納割引制度」です。退職金など生活資金に余裕があるときは検討したい制度です。
「付加保険料」
「国民年金前納割引制度」
退職後の住民税は1年目に注意
住民税は前年(1月から12月まで)の所得に基づいて計算されます。通常、年末調整や確定申告のデータから計算します。支払い時期は6月から翌年の5月までです。在職中は給与から天引きされてます。給与の明細に住民税は記載されてます。退職するときは、退職金や最後の給与から残額を天引きします。退職後に無収入で所得がなければ、その翌年から住民税は0円になります。退職した後の1年間は、現役時代と同じ住民税を支払わなくてはなりません。支払い方法は、前年の所得に基づく保険料を6月から翌年5月にかけて支払います。3ヶ月分を前払いします。(支払期は6月、8月、11月、2月です。)
3月31日で退職し、その後無収入となるケースでは次のとおりです。
2020(令和2)年3月 定年退職(5月分まで天引きで支払い)
2020(令和2)年6月 住民税決定通知(2019年の所得に基づく高い保険料)
6月から翌年5月までは現役時代の所得(2019年所得)に基づく高い保険料を支払います。
2021(令和3)年6月 住民税決定通知
(2020年の所得に基づく保険料なので、退職した年の1月〜3月分の給与が反映されます。)
2022(令和4)年6月 住民税決定通知
(2021年の所得に基づく保険料なので、無収入として反映されます。)
上記の例のように退職(2020年3月)後に無収入であれば、翌翌年(2022年6月)からは住民税は0円になります。
住民税は「前年の所得」で計算されるので注意しましょう。
退職後の所得税
所得税は、収入に対して課税されます。退職後に無収入であれば所得税もかかりません。
通常、退職時には「退職所得の受給に関する申告書」を提出し、所得税の精算が完了しています。
無収入であれば確定申告も必要ありません。ただ少額な収入(30万円以下)があり所得税を源泉徴収されていれば確定申告で還付できることがあります。もし該当しそうであれば最寄りの税務署へ確認しましょう。
「まとめ」退職後に無収入でも支払うべきもの
定年退職後、年金受給前の無収入期間でも、次の支払いは必須です。
○国民健康保険 退職後1~2年は高額(月額4万円くらい)
○住民税 退職後1年目は高額、2年目は退職年の所得が反映される。
この他に、民間会社の医療保険や生命保険に入っていれば確認が必要です。また「持ち家」であれば固定資産税も毎年支払わなくてはなりません。