街にジングルベルが鳴り響き、赤と緑のイルミネーションがきらめく季節がやってきましたね。クリスマスツリーの飾り付けを終えて、ほっと一息ついている方も多いのではないでしょうか。
この時期、子供たちにとっては一年で一番のビッグイベントが待っています。そう、サンタクロースの訪問です。ふと、こんなことを思ったことはありませんか?
「サンタクロースって、そもそも何者なんだろう?」
「どうして赤い服を着ているの?」
「いつからトナカイに乗るようになったの?」
私たちが当たり前のように受け入れているクリスマスの風景にも、実は意外な歴史や心温まるエピソードが隠されています。実は、サンタクロースのモデルになった人物は、今のサンタさんとは似ても似つかない姿をしていた時期もあったのです。
今回は、知れば今年のクリスマスがもっと楽しくなる「サンタクロースの正体と歴史」について、じっくりと紐解いていきます。お父さんお母さんが子供たちの素朴な疑問に答えるためのヒントも詰め込みました。温かい飲み物を片手に、秘密の物語の旅へ出かけましょう。
サンタクロースのモデルは実在した!起源は「聖ニコラウス」
まず最初に、最も大きな謎である「サンタクロースは誰なのか」という問いにお答えしましょう。サンタクロースには、明確なモデルが存在します。それは、今から約1700年も前に実在した一人の男性です。

4世紀の司教「聖ニコラウス」の伝説
サンタクロースの起源となった人物、それは4世紀頃(およそ西暦270年から343年の間といわれています)に活躍した「聖ニコラウス」です。彼は現在のトルコ南部に位置する「ミラ」という街のカトリック教会の司教でした。
ニコラウスは非常に裕福な家に生まれましたが、両親を早くに亡くしています。しかし彼は、相続した莫大な遺産を自分のために使うことはありませんでした。「困っている人を助けたい」という強い慈悲の心を持っていた彼は、その財産を貧しい人々や病気の人々のために惜しみなく使い、生涯を通じて多くの人々を救ったと伝えられています。
彼の人柄を表すエピソードは数多く残されており、無実の罪で処刑されそうになった人々を救ったり、船乗りたちの守護聖人として嵐を鎮めたりといった奇跡譚も語り継がれています。彼の死後、その高潔な行いから「聖人(セイント)」として崇められるようになり、「聖(セイント)ニコラウス」と呼ばれるようになりました。
この「セイント・ニコラウス」という名前が、オランダ語で「シンタクラース」と発音されるようになり、それが後にアメリカへ渡った際に訛って「サンタクロース」になったというのが、名前の由来の定説です。つまり、サンタクロースは北欧の妖精などではなく、実在した慈愛あふれる宗教家がルーツだったのです。
靴下にプレゼントを入れる理由になった「金貨の逸話」
クリスマスといえば、「暖炉や枕元に靴下を吊るして寝る」という習慣がおなじみですよね。なぜ、プレゼントの入れ物が靴下なのでしょうか。これにも、聖ニコラウスのある有名なエピソードが関係しています。
ある時、ニコラウスが住む近所に、3人の娘を持つ貧しい家族が暮らしていました。その家はあまりにも貧しく、娘たちを結婚させるための持参金を用意することができませんでした。それどころか、生活のために娘たちを身売りさせなければならないほど追い詰められていたのです。
この悲しい事情を知ったニコラウスは、彼女たちを救いたいと考えました。しかし、彼は自分の善行を人に見せびらかすことを嫌う、とても謙虚な性格でした。そこで彼は、夜中にこっそりとその家の屋根に登り、煙突から金貨を投げ入れたのです。
煙突から投げ込まれた金貨は、偶然にも暖炉のそばに干してあった洗濯物の靴下の中にストンと落ちました。翌朝、靴下の中から金貨を見つけた家族は驚き、喜び合いました。この金貨のおかげで長女は無事に結婚することができたのです。
その後、ニコラウスは次女、三女のためにも同じように金貨を投げ入れ、家族全員を幸せに導きました。この「煙突から金貨を投げ入れたら靴下に入った」という逸話が、世界中に広がり、「クリスマスの夜には靴下を用意して、贈り物を待つ」という風習に変わっていったのです。サンタクロースが煙突から入ってくるというイメージも、この話が元になっていると言われています。
なぜ「赤い服」なの?サンタクロースのビジュアル変遷
次に、サンタクロースの見た目について掘り下げてみましょう。「サンタさん=赤い服」というイメージは、世界共通の常識のように思えますが、歴史を振り返ると最初から赤かったわけではないことがわかります。

昔のサンタは緑や青だった?多様なイメージの時代
聖ニコラウスの伝説がヨーロッパ各地に広まる過程で、彼にまつわる行事やイメージは地域ごとの民間伝承と混ざり合っていきました。
例えば、イギリスには古くから「ファーザー・クリスマス」という存在がいました。彼はクリスマスの擬人化のような存在で、初期の頃は「緑色の服」を着ていることが多かったのです。これは、常緑樹であるヒイラギやモミの木、あるいは春の訪れを象徴する色であり、自然崇拝や妖精のイメージに近いものでした。
また、国や時代によっては、青い服、茶色の毛皮、白いローブなど、サンタクロース(に相当する人物)の服装はバラバラでした。教会の司教としてのニコラウスを描く際は、厳格な司教服をまとい、痩せ型で描かれることも一般的でした。
19世紀のアメリカでも、挿絵画家たちが描くサンタクロースの姿は定まっていませんでした。黄色い服を着ていたり、パイプをくわえた小人のような姿だったりと、今の私たちが想像する「恰幅の良いおじいさん」とは異なる姿で描かれることも珍しくなかったのです。
「コカ・コーラ説」の真実と定着した理由
では、いつから「サンタ=赤と白の服」に統一されたのでしょうか。ここでよく語られるのが「コカ・コーラ社が赤い服のサンタを作った」という都市伝説です。これは半分正解で、半分間違いと言えるでしょう。
実は、コカ・コーラの広告以前にも、19世紀後半にトーマス・ナストという画家が赤い服のサンタクロースを描いており、赤のイメージは徐々に広がりつつありました。しかし、それが決定的な「世界共通の姿」として定着したのは、やはりコカ・コーラ社の功績が大きいと言えます。
1931年、コカ・コーラ社は冬のキャンペーンのために、画家のハッドン・サンドブロムに広告イラストの制作を依頼しました。サンドブロムは、聖ニコラウスの伝説や詩のイメージを元に、コカ・コーラのブランドカラーである「赤」を基調としたサンタクロースを描き上げました。
彼が描いたサンタクロースは、ふっくらとした頬、真っ白なあごひげ、そして見る人を幸せにするような陽気な笑顔が特徴的でした。それまでの厳格な聖人のイメージとは異なり、人間味あふれる温かいおじいさんとしてのサンタクロース像は、当時の人々の心に深く刺さりました。
この広告キャンペーンが長年続いたことで、「サンタクロースといえば、この姿」というイメージがアメリカ全土、そして世界中へと刷り込まれていったのです。つまり、コカ・コーラ社が「赤」をゼロから発明したわけではありませんが、私たちが愛する「陽気で赤い服のサンタさん」を完成させ、世界標準にしたのは間違いなく彼らの広告の力だったのです。
トナカイはなぜ空を飛ぶ?「8頭」と「赤鼻」の秘密
サンタクロースの良き相棒、トナカイについても忘れてはいけません。実は、トナカイたちにも名前があり、彼らが登場したのにも明確な歴史的なきっかけがあります。

ソリを引くトナカイが登場したのは1823年
聖ニコラウスの時代には、もちろんトナカイはいませんでした。彼が伝説の中で移動する際は、白馬に乗っていたり、徒歩だったりしました。トナカイがソリを引く姿が定着したのは、19世紀に入ってからです。
決定打となったのは、1823年にアメリカの新聞に掲載された『聖ニコラウスの訪問(A Visit from St. Nicholas)』という詩です。現在では『クリスマスの前の晩(The Night Before Christmas)』としても知られるこの詩の中で、サンタクロースは8頭のトナカイが引くソリに乗って空を飛んでやってきます。
この詩の中で、8頭のトナカイにはそれぞれの名前が付けられました。先頭から順に、ダッシャー、ダンサー、プランサー、ヴィクセン、コメット、キューピッド、ドナー、ブリッツェンです。それぞれの名前には「跳ねる者」「雷」「稲妻」といった意味が込められており、彼らが力強く夜空を駆け抜ける様子が表現されています。この詩が大流行したことで、「サンタは8頭のトナカイとやってくる」という設定が世界中の子供たちの常識となりました。
「赤鼻のトナカイ」ルドルフは後輩だった!
「真っ赤なお鼻のトナカイさんは~」という歌でおなじみの「ルドルフ」ですが、実は彼は、前述の8頭のトナカイたちよりもずっと後に生まれたキャラクターです。
ルドルフが誕生したのは1939年。アメリカの通信販売会社が、クリスマス商戦の一環として子供たちに配る塗り絵本のキャラクターとして考案したのが始まりでした。作者のロバート・L・メイは、「鼻が赤い」というコンプレックスを持つトナカイがいじめられながらも、その輝く鼻のおかげで霧の夜にサンタクロースのソリを先導し、英雄になるという物語を作りました。
この物語は、自身の境遇や娘への愛情を込めて書かれたもので、発表されるやいなや大ヒットとなりました。その後、この物語を元にした歌が作られ、世界中で愛されるクリスマスソングとなったのです。
つまり、ルドルフは伝統的な8頭のトナカイたちの「後輩」にあたり、現在では彼を含めた「9頭」でサンタクロースのソリを引いているとされることが多いのです。
世界各国のユニークなサンタクロース事情
日本では「サンタクロース」一択ですが、世界を見渡すと、国によって少し違った特徴を持つサンタや、その相棒たちが存在します。ここでは少しマニアックな世界のサンタ事情をご紹介しましょう。
オランダのシンタクラースと従者ズワルテ・ピート
サンタクロースの語源となったオランダの「シンタクラース」は、現在でも12月5日の夜(聖ニコラウスの日の前夜)に子供たちにプレゼントを配ります。面白いのは、彼は北極からではなく、スペインから蒸気船に乗ってやってくるという設定です。
そして、彼には「ズワルテ・ピート(黒いピート)」と呼ばれる従者がいます。ピートはムーア人の衣装を着ており、シンタクラースの代わりに煙突に入ったり、お菓子を配ったりして手助けをします。オランダの子供たちにとっては、シンタクラースと同じくらい親しみのある人気者です。

ドイツの恐怖!悪い子をお仕置きするクランプス
ドイツやオーストリアの一部では、サンタクロース(聖ニコラウス)は、優しいだけではありません。なんと、恐ろしい形相をした「クランプス」という相棒を連れていることがあります。
聖ニコラウスが良い子にプレゼントを与えるのに対し、クランプスは悪い子にお仕置きをする役割を担っています。鎖や鐘を持ち、鬼のような姿で街を練り歩くクランプスのパレードは、子供たちにとっては恐怖の対象ですが、同時に「良い子にしていなければならない」という教訓を与える伝統行事として、現在も大切にされています。日本の「なまはげ」に少し似ているかもしれませんね。
子供に聞かれたら?サンタクロースの「粋な」教え方
最後に、この記事の実用的な締めくくりとして、親御さんたちが直面する最大のミッション、「子供からの鋭い質問」への対処法について考えてみましょう。
「サンタさんって本当にいるの?」への回答例
子供が成長するにつれて、必ずと言っていいほど出てくるのがこの質問です。嘘をつくのは心苦しいけれど、夢を壊したくもない。そんな時は、サンタクロースを「特定の一人の人間」としてではなく、「受け継がれる精神」として伝えてみてはいかがでしょうか。
例えば、歴史的な事実を交えてこう話してみるのです。
「昔、聖ニコラウスというとても優しい人がいてね、貧しい人を助けたり、子供たちを喜ばせたりしていたんだよ。その人が亡くなった後も、『誰かを喜ばせたい』という優しい気持ちが世界中に広がって、その魂を受け継いだのが今のサンタさんなんだよ」
あるいは、少し背伸びをした回答として、
「サンタクロースは、信じている人の心の中にだけ住んでいる魔法のような存在なんだよ。だから、あなたが信じている限り、サンタさんは間違いなく存在するんだよ」
と、映画や絵本のようなロマンチックなアプローチをするのも素敵です。
また、「世界中の子供たち全員に一人で配るのは大変だから、パパやママがサンタさんから『お手伝い』を頼まれていることもあるんだよ」と伝えることで、親が関与している事実を部分的に認めつつ、サンタクロースという「総監督」の存在を残す方法も、多くの家庭で採用されているスマートな答え方です。
大人も楽しむ!NORADのサンタ追跡作戦
子供たちにサンタクロースの実在感をよりリアルに感じてもらうために、現代のテクノロジーを活用するのもおすすめです。
毎年クリスマスイブになると、NORAD(北米航空宇宙防衛司令部)という、普段はミサイル防衛などをしている非常に真面目な軍事組織が、「サンタクロース追跡サイト」を公開します。これは1955年、ある通販会社の広告に記載されたサンタへの直通電話番号が、誤って軍の司令部の番号になってしまったことがきっかけで始まった、心温まるプロジェクトです。
当時の司令官が、間違い電話をかけてきた子供に「レーダーでサンタを確認した」と答えたという粋な対応が、現在まで半世紀以上にわたって続けられています。
クリスマスイブの夜、スマホやパソコンで「今、サンタさんは日本の上空を通過したよ!」と一緒に画面を見れば、子供たちの興奮は最高潮に達することでしょう。大人も童心に帰って楽しめる、現代ならではのクリスマスの過ごし方です。
まとめ:今年のクリスマスは「由来」を知って温かい夜を
今回は、サンタクロースの意外な由来から、赤い服の歴史、トナカイの秘密、そして子供たちへの伝え方まで、幅広くご紹介しました。
サンタクロースの起源である聖ニコラウスの伝説を知ると、クリスマスプレゼントという行為が、単なる「物のやり取り」ではなく、「相手を思いやる心」や「見返りを求めない優しさ」から生まれたものだということが分かります。

赤い服もトナカイも、長い歴史の中で多くの人々が「もっとクリスマスを楽しくしたい」「子供たちを喜ばせたい」と願って作り上げてきた、愛の結晶と言えるかもしれません。
今年のクリスマスは、ケーキやチキンを囲みながら、ぜひご家族やパートナーと、こんな「サンタクロースの秘密の話」をしてみてはいかがでしょうか。きっと、例年以上に温かく、思い出深い夜になるはずです。
「ときめきの秘密基地」では、これからもあなたの暮らしに彩りを添える情報をお届けしていきます。それでは、素敵なクリスマスをお過ごしください!
